いつかのおじさん

あの人は今どうしてるかなぁ…

冷える夜はふと思い出します。



まだ僕が蒲田に住んでいる頃…



あれは確か、



冷たい風が皮膚を突き刺す真冬に起きた事件です。




毎日寒くて汗が出にくいので、朝走る時や練習時は外に熱を逃がさないサウナスーツが欠かせないアイテムでした。



そのサウナスーツ、値段は上下でだいたい２万ちょっと。
キツキツの生活をしていた僕には本当に高価で大切にしていた物でした。



それがある朝、ベランダに取りに行くと…



な、な、な、ないっ




サウナスーツがないっ




下はあるっ




が上がないっ




下はあるが上がないパターンだ




なんと、僕の大事なサウナスーツが強風で飛ばされてしまったのです。



溢れ出る涙をシャワーで誤魔化すくらいのショックを受けました。




でも、いつまでも落ち込んではいられません。




僕は仕方なくサウナスーツなしの生活を過ごし始めました。




２日経ち、３日経ち、だんだん諦めがつきだした頃…




なんと、家への帰宅途中にサウナスーツと再会したのです。




ただ残念なことに感動の再会とはいきませんでした。




そうです。




すでに他人の手に渡っていたのです。




空き缶をたんまり入れた袋を両手に持ったおじさんが、パリコレを思わせる程の貫禄を出して着こなしていたのです。




あれは間違いなく俺のだ・・・




「おじさん、それ暖かいでしょ？それすっごく暖かいでしょ？なんてったって熱を外に逃がさないサウナスーツだからね・・・・俺の。」




と思って何か言おうとしましたが・・・




何となく何も言えませんでした。





あんなに暖かそうにしてるおじさん見たら・・・




脱げぇーい、なんてとても言えません。





おじさんにあげることにしました。





あのおじさん、今年の冬も無事越せてるだろうなぁ。